【執筆者】
- 【資格】1級製パン技能士、製菓衛生師、職業訓練指導員
- 大学卒業後、大手流通業の食品部門でパン作りを始まる
- 3社で店長等を歴任後、専門学校の製パン教師として約四半世紀勤め、多くの卒業生を輩出。
「パンを作る時の発酵のやり方は?」
「パンの発酵ってどんな役割があるの?」
パン作りを始めようと考えている人が、一度はぶつかる「発酵って何?」「正しいやり方は?」という疑問。
本記事では、パンを美味しく作るための「発酵」について工程ごとにわかりやすく解説しています。
また「パンが膨らまない」「パンの発酵が上手くいかない」という場合の原因と対策についても詳しく解説しています。
「美味しいパンを作るための発酵方法を知りたい」「パンが膨らまない時はどうしたらいい?」と考えている人は、ぜひ本記事を参考にして、パンを発酵させてみてください。
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パンの発酵の役割は?手作りパンの美味しさは「発酵」で決まる!
パンの「発酵」とは、パンの生地の中にあるショ糖やでんぷんなどの糖分をパン酵母(イースト)が分解して、炭酸ガスやアルコールを発生させること。
パン生地内にあるグルテンが、発酵によって発生した炭酸ガスをとどめておくことで、パン生地が膨らみます。
同時に、発酵中はパン生地の熟成も進むため、小麦の風味や旨味、弾力を引き出すために大切な工程です。
パンの発酵は、以下のように「一次発酵」と「二次発酵」に2段階に分かれています。
目的 | 方法 | 温度の目安 | 湿度の目安 | 発酵完了の確かめ方 | |
---|---|---|---|---|---|
一次発酵 |
|
一般的には、丸めたパン記事をボウルに入れてラップをかけて乾燥を防止する。 室温25〜35℃・湿度70〜80%程度の環境で生地が2〜2.5倍に膨らむまで待つ。 ※作るパンの種類によって異なります |
室温25〜35℃程度 | 70〜75%程度 |
|
二次発酵 | 成形後のガスが抜けた生地を最終的に発酵させ、焼き上がりをふっくらさせる | 成形済みの生地を並べて、室温30〜40℃の環境で生地が2倍程度に膨らむまで待つ ※作るパンの種類によって異なります |
室温30~40℃ | 75%~80%程度 |
|
※上記の時間・温度・湿度はあくまでも目安です。
実際の発酵の際は、作るパンのレシピに合わせて、発酵をおこなうようにしてください。
※フィンガーテスト:強力粉をつけた指を、パン生地の中央に差し込み、抜いた後の状態を確認することで生地の状態をチェックする方法。
発酵は、美味しいパンを作るために最も大切な工程。
一次発酵・二次発酵が共に上手くいかないと、美味しいパンを作ることはできません。
慣れないうちは、難しい工程ですが、温度・湿度の管理や発酵完了の見極め等をしっかりおこなえば、徐々に上手く発酵の管理ができるようになってきます。
「一次発酵」は生地の熟成と食感をフワフワにさせる目的でおこなう
一次発酵の目的は、主に2つ。
- 生地を膨らませて、フワフワの食感にする
- 生地を熟成させて、小麦の旨味・風味を引き出す
一次発酵では、生地を膨らませて食感をフワフワにするだけでなく、生地を熟成させることで、パンの旨味も引き出します。
作りたいパンの種類にもよりますが、短い時間で一気に発酵させるよりも、長い時間をかけてゆっくり発酵させた方がパンの旨味が出やすくなります。
一次発酵の方法
一般的なパンの一次発酵は、以下のようにおこないます。
- 丸めたパン生地をボウルに入れて、乾燥を防ぐためにラップをかける。
- 室温を25~35℃、湿度を70~75%程度の環境で生地が2〜2.5倍の大きさに膨らむまで待つ
作っているパンの種類によって、適切な温度や湿度が異なるため、以下を参考にしてレシピに合わせて環境を調整してください。
温度の目安 | 湿度の目安 | |
---|---|---|
イースト量が多く発酵時間が短い 食パンや菓子パンなどの ソフト系のパン |
30℃前後 | 75%程度 |
イースト量が少なく発酵時間が長い フランスパンなどの ハード系のパン |
30℃前後度 | 70%程度 |
フランスパンなどのハード系のパンは、レシピによって20℃以下でじっくり発酵させる場合もあるので、作りたいレシピに合わせて環境を整えてみてください。
また、レシピに書いてある「発酵時間」はあくまで目安です。
発酵にかかる時間は環境やイースト量によって変わるため、自分の目で生地の様子をしっかり確かめながら、パンを作りましょう。
オーブンの発酵機能や冷蔵庫を使って発酵させることもできる
冬など室温が低い場合はオーブンの発酵機能を活用するのもおすすめ。
「発酵機能付きのオーブンに興味がある」という人は、ぜひ以下の記事も参考にしてみてください。
また、冷蔵庫で一晩じっくり発酵させる「オーバーナイト法」という発酵方法もあります。
パン生地を冷蔵庫で8時間~12時間寝かせてゆっくり発酵させる方法で、しっとりモチモチな仕上がりが特徴です。
「環境を安定させやすい」「発酵中にグルテンが形成されるのでこねる時間が短くても成功しやすい」というメリットもあるので、パン焼き初心者でも挑戦しやすいでしょう。
一次発酵終了の目安・確かめ方
パン生地の一次発酵は目安として、ボウルの中の生地が発酵前より2〜2.5倍に膨らんでいたら終了です。
「見た目では上手く判断できない」という場合は「フィンガーテスト」で生地の発酵の様子を確かめてみましょう。
フィンガーテストとは、強力粉をつけた指を、パン生地の中央に差し込み、抜いた後の状態を確認することで生地の状態をチェックする方法のこと。
指を差し込んで、抜いた穴がそのままの状態、または少し小さくなる程度であれば一次発酵は終了です。
指を抜いた穴がすぐに元に戻ってしまう場合は「発酵不足」。穴の周りにシワができて、生地表面に多くの気泡がある場合は「過発酵」です。
発酵は「絶対に成功する」という方法はないので、パン作りの回数を重ねて徐々に慣れていきましょう。
一次発酵がうまくいかないと・・・
一次発酵で発酵不足だと、二次発酵も上手くいかず、あまり膨らまないパンになってしまいます。
食感もフワフワ感はなく、目が詰まった固いパンになってしまうので、必ずフィンガーテストをして、発酵不足だった場合は、しっかり追加で発酵させましょう。
逆に発酵させすぎると、炭酸ガスとアルコールが過剰に発生することで、食感がパサパサになり、アルコール臭と酸味が目立つパンになってしまいます。
過発酵になってしまったパンは、基本的に元に戻すことはできないので、ベンチタイム※がいらない丸パンにしたり、ピザ生地にして食べてしまいましょう。
※一次発酵後の成形作業前にパン生地を休ませる時間のこと。
「二次発酵」はパンの焼き上がりをふっくらさせる目的でおこなう
二次発酵の目的は、成形したパン生地を最終的に発酵させること。
一次発酵後にパンの成形をおこなうと、パンの中の炭酸ガスが抜けていってしまいます。
パンを焼く前に再度発酵をおこなうことで、生地の中にあらためて炭酸ガスが生まれ、パンをふっくらと焼き上げられます。
二次発酵の方法
一般的なパンの二次発酵は、以下のようにおこないます。
- 成形したパン生地をオーブンシートに並べる
- 室温を30~40℃、湿度を75~80%程度の環境で生地が2倍の大きさに膨らむまで待つ
オーブンの発酵機能を使う場合は、パン生地が乾燥しやすいので、熱湯を入れた小さな容器をオーブン内に入れたり、霧吹きで表面を濡らしたりして調整しましょう。
一次発酵同様、作っているパンの種類によって、適切な温度や湿度が異なるため、以下を参考にしてレシピに合わせて環境を調整してください。
温度の目安 | 湿度の目安 | |
---|---|---|
イースト量が多く発酵時間が短い →食パンや菓子パンなどのソフト系のパン |
35〜40℃前後 | 85%程度 |
イースト量が少なく発酵時間が長い →フランスパンなどのハード系のパン |
27〜28℃前後度 | 75%程度 |
二次発酵終了の目安・確かめ方
成形した生地の大きさが2倍程度になったら、二次発酵終了の合図です。
「見た目では上手く判断できない」「発酵の失敗が不安」という場合は、生地の表面を指で軽く押すことでも、二次発酵の終了を確かめることができます。
二次発酵終了の目安は、指の跡が少し残る程度。
指の跡が完全に戻ってしまった場合は「発酵不足」です。指の跡がしっかり残った場合は「過発酵」の状態になります。
二次発酵がうまくいかないと・・・
二次発酵で発酵不足だと、パンが上手く膨らまず、粘土のような食感に・・・。
「発酵不足」のパン生地は、発酵を進めれば簡単にリカバリーできます。
生地を指で押した際に跡が元に戻った場合は、様子を見ながら発酵をさらに進めましょう。
二次発酵で「過発酵」になると、表面がボコボコで、あまり焼き色がつかないパサパサの仕上がりになってしまいます。
過発酵になってしまった場合は、できるだけ早く焼いてしまいましょう。
パサパサの生地には、液体が染み込みやすいため、フレンチトーストやバターをたくさん使ったラスクにリメイクするのがおすすめ。
または、パン粉にリメイクしても良いでしょう。
特に夏場は過発酵になりやすいので、材料を冷蔵庫に入れて冷やしてから使うなど、生地の温度を下げる工夫をしておくのがおすすめです。
パンが膨らまない6つの原因
「発酵でパンが上手く膨らまない」という場合は、以下の6つが原因である可能性があります。
- 材料が正確に計量できていない
- 使っている酵母(イースト)が古くなっている
- 生地がしっかりこねられていない
- 発酵に適した温度(30℃~40℃)が保たれていない
- 生地の表面が乾燥している
- 成形時にしっかり「とじ目」が閉じられていない
それぞれ詳しく解説します。
材料が正確に計量できていない
パン作りは、普段の料理と違って、レシピ通りに材料を計量することが大切です。
特に塩の分量は正確に測る必要があります。
万が一、塩を入れ過ぎてしまうと、浸透圧でパン酵母の水分が奪われ、パン酵母が死滅してしまう恐れも・・・。
発酵の失敗を防ぐためにも、材料は正確に計量するようにしましょう。
使っている酵母(イースト)が古くなっている
パン酵母は生き物なので、あまりにも古いものは発酵力が弱くなっていたり、失われていたりする可能性があります。
発酵を成功させるためにも、パン酵母は保存期間内に使い切るようにしましょう。
もし、パン酵母の保存期間が切れていたり、においが変わってきたりしたら、発酵力が弱まっている可能性があるので、新しいものを使うようにしてください。
パン酵母がまだ使えるか確かめる方法
- 35℃前後のお湯を、ボウルに50ml用意し、砂糖ひとつまみとパン酵母小さじ1杯を混ぜ溶かして、10分程度放置する
- 10分後に全体的にパン酵母が膨らんで、ビールのように泡が浮いていたらパン酵母が活動している証拠。変化がなかった場合は、パン酵母の活動が失われているため、処分しましょう。
生地がしっかりこねられていない
パンがしっかりこねられていないと、パン生地内のグルテンが弱いままなので、発酵による炭酸ガスを留めることができません。
そのため、パン生地が上手く膨らまなくなってしまいます。
パン生地はしっかりこねて、グルテンを強くするようにしましょう。
発酵に適した温度(30℃~40℃)が保たれていない
パン酵母が活発になる温度は、30℃~40℃程度と言われています。
冷蔵庫でじっくり発酵させる場合以外は、パンの発酵は30℃~40℃を保てる環境を作ることが大切です。
冬など室温が低い場合は、発酵機や発酵機能付きのオーブンを利用すると、パン酵母が働きやすい温度を保つことができます。
発酵に使える機械を持っていない場合は、40℃程度のお湯で生地を湯煎する方法でも適温を保てるでしょう。
生地の表面が乾燥している
生地の表面が乾燥していると、生地の膨らみの妨げになってしまいます。
発酵の時はもちろん、ベンチタイムなどの生地を休ませるタイミングでも、生地が乾燥しないようにラップをかけたり、濡らした布巾をかけたりして、生地の乾燥を防ぐようにしましょう。
また、水分量が多い生地を扱いやすくするための「打ち粉」を多くし過ぎても、生地は乾燥してしまいます。
「打ち粉」を使う際は、パン生地表面に薄く張る程度(目安として小さじ1杯程度)に調整するようにしましょう。
成形時にしっかり「とじ目」が閉じられていない
成形時に「とじ目」がしっかり閉じられていないと、発酵時に発生する炭酸ガスを生地の中にとどめておくことができません。
なお、「とじ目」がしっかり閉じていても、きつく丸めすぎているなど、必要以上に生地に負担がかかっていると、膨らみが悪くなります。
生地に負担をかけすぎずに、しっかり「とじ目」と閉じる力加減が大切です。
パン作りを始めたばかりの時は、上手くいかない人も多いのですが、徐々に力加減がわかってくるので、慣れるまで根気よくパン作りをしてみてください。
パンの発酵でよくある質問
パンの発酵でよくある以下の3つの質問について、それぞれまとめました。
- パンの一次発酵は何分くらいの時間がかかる?
- パンの発酵が足りないとどうなる?
- 発酵なしでもパンは作れる?
ぜひパン作りをする際の疑問解消に役立ててください。
パンの一次発酵は何分くらいの時間がかかる?
使うパン酵母や、作るパンの種類によって、発酵時間は異なります。
そのため、明確に「〜分」「〜時間」という断定はできません。
特に、天然酵母を使用する場合の発酵時間は2~24時間の幅広い範囲。
レシピに合わせて、温度・湿度を整えてパン生地の様子を見ながら調整することが大切です。
パンの発酵が足りないとどうなる?
パンの一次発酵が足りないと、あまり膨らまず、目が詰まった固いパンになってしまいます。
二次発酵が足りないと、粘土のようなヌチャっとした食感に・・・。
パン作りは全工程がつながっているので、一次発酵も二次発酵も適切におこなうことが大切です。
本記事で紹介した発酵完了の目安も参考にして、適切に発酵作業をおこなってください。
発酵なしでもパンは作れる?
パン酵母の代わりに、ベーキングパウダーを使うレシピであれば、発酵作業なしでパンを作ることができます。
モチモチ感はあまりありませんが、フワフワのパンを作ることができるので「パンを作りたいけど、発酵作業が不安」という人は、ベーキングパウダーを使うパンから始めてみても良いでしょう。
一次発酵と二次発酵を成功させて美味しいパンを作ろう
美味しいパンを作るための鍵は「発酵」の工程にあります。
以下の「一次発酵」と「二次発酵」を適切におこなって、パンの美味しさを引き出し、ふっくらとしたパンのための土台を整えましょう。
目的 | 方法 | 温度の目安 | 湿度の目安 | 発酵完了の確かめ方 | |
---|---|---|---|---|---|
一次発酵 |
|
一般的には、丸めたパン記事をボウルに入れてラップをかけて乾燥を防止する。 室温25〜35℃・湿度70〜80%程度の環境で 生地が2〜2.5倍に膨らむまで待つ。 ※作るパンの種類によって異なります |
室温25〜35℃程度 | 70〜75%程度 |
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二次発酵 |
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成形済みの生地を並べて、室温30〜40℃の環境で生地が2倍程度に膨らむまで待つ ※作るパンの種類によって異なります |
室温30~40℃ | 75%~80%程度 |
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発酵作業や、発酵完了の見極めは慣れも必要なので、最初のうちは失敗してしまうことも少なくないかもしれません。
しかし、回数を重ねるごとに確実に成功率が上がったり、発酵完了の目安がしっかりわかったりするようになるので、ぜひ継続して作ってみてください。
「発酵」を成功させて、小麦の旨味と風味がしっかり出たフワフワのパンを作りましょう。
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